北とぴあ国際音楽祭通信vol.2

今年の音楽祭のメイン公演は、グルック作曲のオペラ・コミック《思いがけないめぐり会い、またはメッカの巡礼》です。今号では、グルックとこの作品にまつわるお話を紹介します。

悲劇の王妃マリー・アントワネットの音楽教師

クリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714-1787)はオペラやバレエ曲を多く残したドイツの作曲家。マリー・アントワネットがまだウィーン宮廷で過ごしていた頃の音楽教師でもあります。フランス王室へ嫁いだマリー・アントワネットの後を追ったグルックは、パリでも多数のオペラを上演し成功を収めました。また、グルックには「オペラ改革」という重要な功績があります。当時のオペラ・セリア(悲劇的オペラ)は、人気歌手の技量を際立たせることを重視しすぎたため、劇の進行が崩壊しつつありました。そのことに反対していたグルックは、音楽と劇を密接に結びつけたオペラとしての完成度を追求したのです。このことは、その後のオペラの変遷に大きな影響をもたらしました。


未知なる文化への憧れ

ところで、モーツァルトやベートーヴェンの名曲に「トルコ行進曲」がありますが、一体どうしてトルコなのでしょう? 18世紀のヨーロッパは、現在のトルコであるオスマン帝国の文化に大きな影響を受けていました。彼らが誇る大音量の軍楽は、ヨーロッパの人々にとって脅威であるとともに、憧れでもありました。そのため当時の作曲家は、打楽器の効果や異国風の節回しを採り入れた「トルコ風」の音楽をこぞって作曲したのです。今年の北とぴあ国際音楽祭では、この異国趣味の代表的な作品の一つ、グルックのオペラ・コミック《思いがけないめぐり会い、またはメッカの巡礼》(1764年初演)を日本初演します。

物語のテーマは「寛大なトルコ人」。暴君で知られるイスラーム教の君主が、最後には寛大な心で人々を許すという物語です。この台本は、18世紀前半からヨーロッパで絶大な人気を誇りました。グルックのこの作品も各地で繰り返し上演されたほか、ハイドンも同様の台本でオペラを残しています。また、グルックと親交のあったモーツァルトは、この作品に感化されて姉妹作と評される名作オペラ《後宮からの誘拐》を作りました。

オペラ・コミックは、喜劇のお芝居の要素がたっぷり入った親しみやすいオペラです。しかも今回は台詞が日本語。フランス語のアリアも字幕が付くので、気軽にお楽しみいただけます。じっくり勉強してから観たいという方は、9月に赤羽文化センターで開催するオペラ講座にぜひご参加ください。(講座の詳細や申込方法は次号に掲載します。)